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女王のレッスン
第5章 ■努力のタマモノ
「不思議かい?」
存外柔らかな口調で尋ねられ、否定も出来ず、再び彼と視線を交え「少し」と返した。
「そうだよね。好き好んで結婚までしたのにこんなことしてるなんてね」
どこか切なげに言うと、カイさんはまた彼らの情事に見入る。
「……どうしてか聞いてもいいですか?」
邪魔にならないような小声で尋ねると、彼の横顔がふ、と緩んだ。
「僕らはMM夫婦だ。彼女も僕もマゾのね。だけど当然セックスもしたい。そうするとどちらかが何かしら抑制することになる」
「それで、緊縛師の彼と彼女を」
「そういうこと。SMバーとかで多少の欲求は満たされるけど、彼女はね、挿入もされたいと言う。そうなるとそこでは難しい」
「だからせめて、見届けようと?」
そうであって欲しいな、と思いを込めて聞くと、カイさんは矛盾を押し殺した切なげな表情を見せる。
それがざわっと心を撫でて、私までつられて眉を寄せた。
「最初はそうだったな、苦しくもあった。でも、ちょっと業が深くなったんだ、最近」
「……最近?」
彼の視線の先で彼の妻が緊縛師の男に貫かれ、淫らな声を躊躇いなく上げる。
「ああされている彼女を見てると僕まで普通に興奮するようになってきた」
さっき見た、血走らせていた彼の目がまた戻ってくる。
業が深いと彼は言った。SとMは表裏一体。それを見て興奮する彼は果たして、自身に対してのマゾ性なのか、彼女に対してのサド性なのか。
「……おかしいとは思いません」
「そうかな?」
「私だって見てると、普通に興奮しますから」
言ってしまって赤面する。
こんな言葉が彼にとって救いになるとは思わない。でも、恥ずかしくても、言わずにはいられなかった。
こういう手段を取ることすら、彼らにとってはかなりの勇気と努力が必要だったはずだと思うと、どうしても。
「……ありがとう、ルカちゃん」
カイさんは震えそうな瞳をしながら私に告げる。私はなるべく穏やかな顔を作って彼に微笑んだ。
視界の端で瑛二さんが呻き声と共に荒い息を吐いて動きを緩やかに止め、彼が達したことを悟る。彼の奉仕は終わったらしい。
彼女の拘束を解き、バスローブ姿で服を片手にこちらに歩いてくる。
「僕もナミを抱いてくるよ」
カイさんがゆっくりと立ち上がり、瑛二さんに軽く会釈して彼女の元へ向かった。