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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク
「……そっか」
柊平はそれだけ言って、やっぱり笑う。少しだけ寂しげに。
タイミングよく運ばれてきた食事に、「食べようか」と言われて頷き手を付けた。
散々考えてきたはずなのに、会ってしまうと駄目みたい。
頭の中、結局ぐちゃぐちゃのままだ。情けない。ここにきて、謝っていいのかすらもわからないでいる。
黙々と食べ続けて、手の中のそれがなくなる頃、視線を感じて柊平を向いた。
「相変わらずだね、食べながら考え事してる時の遥香ちゃんの癖」
指摘にハッとして我に返る。
「ごめん!つい、なんか……」
「いいよ、気にしないで。最近見てたら格好とか雰囲気とか変わって見えてたけど、安心した」
サンドイッチを包んでいたワックスペーパーを綺麗に畳みながら彼は息を漏らした。
私はまた自己嫌悪を強めながら、手の中の紙をくしゃ、と握る。
「俺が告白した時のこと、覚えてる?個室のバルで向かい合ってご飯食べた時も、遥香ちゃん黙々と食べてたの」
「お、ぼえてる……」
彼が好きだってことを自覚しながら、なんとなくそういう雰囲気を感じて不自然にならないように考えていたら、それも見事に空回っていた。
「そうやって一生懸命になる所が、全部俺に向いたらいいって思った」
私なりに、懸命だった。
「だから受け入れてくれた時、本当に嬉しかった」
だけど全部、踏みにじった。
「……好きだったよ。遥香ちゃん」
ああ、もう。本当に。
この人は。
「泣かないでよ。気持ちの整理はついてるから」
握り締めた手の甲にぽた、とひと雫目から落ちて鼻を啜る。
このままじゃまた、何も言えないで終わってしまう。ならばせめて、踏み出そう。
「……出よう、柊平」
「え?でも、」
「平気。もう泣かないから」
ハンカチでそっと涙を拭って立ち上がった。
「少し歩こう」