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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク
店を出て会社までの道のりを横に並んで歩く。
ビジネスマンの行き交うオフィス街を少し外れた銀杏並木の遊歩道。
手を繋げそうで繋げない微妙な距離の間を乾いた秋風が吹き抜けていった。
「最初の講習の後、柊平が外してた時にね、瑛二さんに声を掛けられたの。『お前、彼のこと愛してないだろう』って」
「……そう」
「私その時は気付いてなかった。柊平は、どうだった?」
隣を歩く彼を見上げて問う。
「少し、兆候はあるかもって思ってた。マンネリは自覚してたから」
彼は私を見ずに静かに告げた。
「……そっか」
「だから遥香ちゃんからの申し出は結構嬉しかったんだ。もしかしたら変わるかもって思って」
「うん、私もそのつもりでいた」
彼の嗜好を勝手に暴いて、興味だけで独走して、期待させるだけさせて傷付けて。
それでも私は、あの緊縛師の傍にいることを選んだ。
その先思い知るどんな感情も糧にすることを引き換えにして。
不意に足を止める。これを言うなら、どうしても彼の目を見たかった。
彼も立ち止まり、無表情のまま私を見る。
「どう謝っても、許されるとは思ってない。でも、本当にごめんなさい」
瑛二さんに出会うきっかけをくれたのは、他でもない目の前の彼なのだ。
今私がここに立つことが出来ているのは、紛れもない彼が起点になっている。