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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク

前置きもなんにもなしに問われたのは、意志。
突然呼ばれたフルネームに、息を呑んだ。だって彼はきっと、本気の時にしか相手の名前をちゃんと呼ばない。
これは、試されてる?
この局面で衝動を感じるのなら、飛び込んでみろと。

世界が創られる瞬間は何度も見て来た。今この時ですら、私は彼の世界の中にいる。
抱くための緊縛術は学んだ。抱く相手のバックグラウンドを思い遣る必要があることも学んだ。
だけど私はまだ技術を学んだだけで、私の世界の創造主にはなっていない。
その機会が今、与えられようとしているのなら。
背筋がぞくりとした。
畏怖じゃない、これは、彼からの期待に興奮してる。
そんなものを感じてしまったら、

「……やる」

飛び込むしかないじゃない。

「……上等だ」

掴んでいた私の顎を満足そうにそっと撫で、瑛二さんは立ち上がる。
彼が真っ直ぐ向けた視線の先を辿って見ると、いつの間にか結衣子さんが腕を組んで立っていた。

「何無粋な真似してるのかと勘繰ったじゃない」
「信用ねえなぁ」
「カナちゃん呼んでくるわ」
「助かるよ」

結衣子さんの背中を見送って、私も立ち上がる。

「どうして、今?」
「それもひとつの衝動だからな」

明確な答えは期待してなかったけど、ここまで曖昧だと少し腹が立った。
口を尖らせるも、片目をすがめて躱される。

「じゃあ、どうしてカナちゃん?」
「レズっ気が強い。お前が慣れてる。それからあいつは、1年半前に俺が拾ってここに連れてきた」
「は?拾ってって、そんな犬猫みたいに……」
「本当だよ。お前が本気でやったらそのバックグラウンドが聞けるかもしれないな」

明らかに挑発する口振りで言って瑛二さんはカウンターへ向かい、髪を戻した稜くんと少し話した後ステージの照明が調光された。
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