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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク

「ほんとだ、美味しい」
「でしょでしょ?稜くんお料理も上手なんだよ」
「そうなんだ?でも確かに上手そう」
「カナこっち来てからふた月くらい結衣子さんの家にいてね、その間瑛二さんや稜くん、お店のみんなもよく来てご飯作ってくれたりお話してくれたり。独りにならないようにって。嬉しかったなぁ……」
「それでカナちゃんは元気になれたんだ」
「うん!で、ここで働くのを決めたんだ。結衣子さんはなかなかいい顔しなかったけどね、稜くんが説得してくれた。HPにカナを載せないでいてくれるのも、そのご主人様に見つからないようにするため」

結衣子さんとお買い物に行った時に聞いたことを思い出し納得する。
あの時準備中って言ってたのは、掲載していい状態にないという意味なのかと察した。

「……みんな優しいね」
「優しいよ。でも、自分には優しくない人ばっかり」

それが寂しいとでも言いたげにカナちゃんは目を伏せる。

「みんな、なんだ?」
「割とみんな、だね。どうやって伝えていいのかわかんないから、そのまんまなんだけど」

最後のひと口をぐっと飲み干してトレイにカップを載せると、彼女は一度伸びをしてクッションに横になった。
小さな肩を抱いてた手が空いてしまって、そのまま頭にそっと載せた。

「……幸せになって欲しいな、みんな。七夕の短冊にもそう書いたのにもう秋だよ……」
「七夕?どこかでやったの?」
「うん、アトリエの中庭に植えてあるから毎年切ってきてお店に飾ってる。楽しいよ、みんなで飾り付けするの」

カナちゃんだって人の幸せを祈ってるじゃない、と思いながら、「楽しそうだね」と相槌を打つ。
他のみんなは何を祈ったんだろうか。確かに自分のことを祈る人は少なさそうではある。
ここで働くみんなの表面の楽しそうな姿と、裏にひっそりと隠す欲望、孤独、悲哀、葛藤。
自分のそれを知ってるからこそ、惜しみなく人を思い遣る。
それはカナちゃんだって例外じゃない。

「……カナちゃんは、今どこに住んでるの?」
「フラッシュバックしないようになって、今はハルちゃんとふた駅隣に一緒に住んでるよ」

私も出来るようになりたいと、心から思う。

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