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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク
「で?接客中に呼び出すなんて珍しいじゃない」
「ああ、アトリエで日曜月曜と押さえられるのいつか教えてくれ」
「泊まりがけなのね。ご希望は?」
「出来ればひと月以内」
稜くんがファイルボックスからカレンダーを出して結衣子さんに渡した。
彼女はそれを指で辿りながら、瑛二さんに「ここ」と示す。
「2週間半か。まあいけるか」
「目的は?」
「写真集用」
「あら、寄稿で一泊?大掛かりだこと」
「違えよ。全部俺が撮って出そうと思ってる」
ん?と一瞬意味を理解しかねて瑛二さんを見た。次いで結衣子さんを見ると、彼女も目を瞬かせて小首を傾げている。
更に稜くんを見たけどこちらは無表情のままで、発言者を見据えていた。
最初に沈黙を破ったのは結衣子さんの溜息。
「……酔ってる?」
「この程度で酔うか。本気だよ」
「瑛二くんが緊縛写真集出すの?」
「それ以外に何がある」
「あなた本当に唐突ね」
「お前には及ばねえよ。前から出してみたいとは言ってただろ」
「せめてもっと早く思いつきなさいよ。外でも撮りたいからってそんな無理矢理な日程組ませようとして」
「察しがいいねえ。あんまり寒くなるとモデルが可哀想だからな」
「どうせ感化されたんでしょう。遥香ちゃんに」
テンポのいい応酬の末、急に出された自分の名前に困惑しながらふたりを交互に見比べた。
「わ、たし?」
呆れ顔の結衣子さんと意地の悪い笑顔の瑛二さん。
意地の悪い方が息を漏らし、私を見た後肩を竦める。
「ないとは言わない。色々あんだよきっかけなんて」
「うちの子で使いたい子いるの?先に教えて頂戴」
「ハルとカナと稜と、ルカ、お前も」
「ええ?」
「は?俺も?」
「ルカはモデルな。あと手伝いも頼むと思う」
何でもないことのように言われて口がぽっかりと開いた。
緊縛写真のモデル!?
「いやいや、私一般人だし」
「他のも一般人だよ。背中とか結び目とか顔隠して撮るから安心しろ。顔出しOKの奴は別でいるしな。稜は絡み役って思ってたんだがさっきユイに縛られてるの見て若干気が変わりそうだ」
「嘘でしょ、そっち?」
「まあ考え中。今度の土曜の昼過ぎにでもここで打ち合わせさせてくれると助かる」
3人分の戸惑いと呆れを飄々と跳ね除けて、猛禽類はひとり楽しそうに口角を凶暴に持ち上げた。