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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク


『CLOSED』の看板が掛かる8 Knotの店のドアノブを回した瞬間、以前見た、結衣子さんと稜くんのあの光景を思い出して開けることを躊躇った。
いや、流石に今日はないだろう、時間も指定された時間の5分前程度だし瑛二さんも来るし。
思い直してドアを引く。
それでも少し身体に緊張を残しながら中に入ると、微かに音楽が聴こえた。奥かららしい。
L字を抜けたその先、ソファに俯いて座る稜くんがいて、彼の膝の上にはこちらを向いて目を閉じる結衣子さんの頭。小さく折られた身体の上に彼のものであろうジャケットが掛かっていた。
音楽の正体はこの店で流れるには違和感のある、現代的な日本のロックミュージック。
彼女の横顔の上に添えられた稜くんの手が、世界の雑音から彼女を守っているようで、自然と歩みがスローになって足音も控えめになる。
取り敢えずふたりとも服を着ていることに安堵。寝るは寝るでも普通の寝るだった。
テーブルの上にはアトリエの間取り図面の紙と方眼紙が散乱し、稜くんのスマホが無造作に置かれていた。音源はこれらしい。
子守唄にするにはちょっと激しいと思うのに、ふたりは私の気配に気付くこともなく寝入ってる。

随分と安らいだ結衣子さんの顔。
床にしゃがむと、稜くんの寝顔も見えた。頭を撫でながらそのまま寝たような、穏やかな表情だった。
結衣子さんと瑛二さんの『ふたり』は、色々乗り越えてきたいっそ戦友のような少しピリッとした感じがあるけれど
結衣子さんと稜くんの『ふたり』は、心なしか割と和やか。
彼女の方が年上で雇い主でもあるんだけど、稜くんへの接し方はこんな感じに甘えているようで。
普通に邪推してしまうな、とそれ以上の思考を自重する。
聞いてみたいけど、さすがに聞けない。

『どう思ってるんですか?』なんて。


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