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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク
「私差し入れ買ってきます。結衣子さんの目が覚めそうな甘いの」
安心させるように朗らかに言うと、結衣子さんがちょこっと顔を上げた。まだ恥ずかしそう。
「だからその間に色々整えて下さい」
もうひと押しすると躊躇いながらも漸く彼女は動き、手が床のバッグに伸びる。お財布を出して五千円札を一枚私に差し出した。
「お願い。ありがとう……」
とろんとした目、子供みたいにぱちぱちとさせてまた顔を覆う。
稜くんは仕方ないといった風に微笑んでスマホの音楽を止めた。
「じゃあ行ってきます」
踵を返してドアへ向かう。
またドアノブに手を掛けようとした時、背後から小走りの靴音が聴こえた。
「待ってルカ。一緒に行く」
振り返ると稜くんがジャケットに袖を通しながら来て、ドアを先に開けてくれる。
「いいの?結衣子さん」
「俺もいない方が気楽でしょ」
さりげなく背に手を当てられ、促された。
稜くんは顔もさることながら振る舞いが時々凄く紳士的。普通にしてたらころりといっちゃう女の子は多いんじゃ。
「どこに行こうとしてた?」
「大通りのデパ地下適当にって思ってた。なんかいいのある?」
「シューキュービックにしよう。あっち渡るよ」
袖をついと引かれて歩行者天国の中対岸の道へ。そのままふたりで歩道を歩いて行く。
「ふたりしてお昼寝なんて昨日お店遅くまで開けてたの?」
「いや、いつも通り2時くらいかな」
「ふうん。じゃあその後が遅かったんだ」
「……そんなでもないけど」
「否定しないんだ。いやらしー」
「大したことじゃない。そこの店だよ」
するりとまた私の前を行ってドアを開けてくれて店に入った。
私が目移りしていたショーケースのキラキラしたケーキに目もくれず、稜くんは目的を端的に告げて包装を待つ。
「早。見てたのに」
「時間掛かりそうだし瑛二さんも来るから。また今度ね」
フォローと笑顔も忘れない。
さらっとした言動ひとつひとつが自然体で洗練されていて、思わす訝しんだ。