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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク

向こうから真っ赤なコペンが笑ったような顔をして近付いてきて、つられて私も笑顔になる。
髪を纏め上げサングラス姿で、その車の運転手は私の目の前に車を停めた。
屋根を開けているお陰で車内に流れるロックなメロディが漏れ出ている。

「お待たせ、遥香ちゃん。なぁに笑って」
「いえ、色々面白くて」

助手席に座ると車高の低さにまず驚いて、席の狭さに驚いて、運転席との近さに驚いた。特別感にドキドキする。
結衣子さんに指定された乗車条件はひとつ。荷物は最小限に纏めること。
屋根がトランクに収まるから荷物は必然的に自分で持つという話だったけど納得した。確かに狭い。

「狭いけど女の子なら全然平気よ。瑛二くんや稜くんは窮屈そうだけどね」

シフトレバーをかこんと入れると軽やかに車が発進する。マニュアル車なことにも驚いた。

「快晴ね、暖かくてよかった。この時期に屋根を開けられないなんて勿体ないもの」
「なんでこの車にしたんですか?」
「この子は6年前に一目惚れして中古だったけど買ったの。女王様を始めてちょうど一周年の頃。この顔とサイズとフォルムに心奪われちゃった」

まるで恋人のことを話すかのように結衣子さんは朗らかに言う。

「意外です。結衣子さんがこういう車って」
「私も意外だったわ、車を持つことも選んだこの子も」
「衝動ですか?」
「まさにそう」

信号待ちで停まると、横断歩道を行き交う人や並んだ車から視線が集まった。
なるほど、これは少し恥ずかしいかも。だけど隣の彼女はそれらを一向に気にすることなく、シフトレバーに置いた指を音に合わせリズミカルに動かす。

「少し疲れてても、この子に乗ると元気になるの。こんなご機嫌な顔した車で屋根なんか開けたら笑顔にならざるを得ないでしょう」

サングラス越しの目が細められ、信号が変わると一番に飛び出した。
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