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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク
口調はいつも通りだし、結衣子さんの表情も落ち着き払っていた。
それがむしろ既に覚悟でもしているようで、見ていたら自分の表情の方が曇っていく。
普通の人だと思ったのに、また遠くなるよう。
「どうしてそんな風に思えるんです?」
「そういうものなのよ。10年にもなると」
「結衣子さんは瑛二さんのことどう思っているんですか?」
思わず口をついて言葉が飛び出した。
ふたりの男性から抱かれる彼女。本当はそれぞれへの想いを聞きたいけれど、稜くんとのことを私が知ってることは彼女は知らない。
結衣子さんは私の問いにさして驚きもせず、静かに口角を上げる。
「愛してるわよ。でも、それだけね」
答えとして用意していたみたい。言い慣れた様子で彼女は彼への想いをシンプルに告げた。
「だから気にしないで。その衝動が訪れたら『綺麗にして』って言うといいわ。瑛二が本気で縛るトリガーになる」
呼び方まで敢えて変えて、結衣子さんは結衣子さんなりの本気を見せ付ける。
奇妙な気分だった。一体どういう意図で言っているのか想像もつかず私が答えられずにいると、彼女の横顔が笑った。
「飛ばすわよ」
脈絡なく言うと、アクセルをぐっと踏み込んだらしい。加速で身体が押し付けられる。
この軽の小さな車のどこにこんなにパワーがあるのかと思う程。それは隣の彼女にも言えることではあるのだけど。
お気に入りの曲が流れ始めたのか、結衣子さんはメロディを口ずさむ。
少し物悲しい雰囲気もあるのに力強さを感じるサウンドに耳を傾けながら、背をシートに預けた。