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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク

「……そうこないとな」

凶暴な笑みで私達を一笑し、目の前の胸に歯を立てる。

「んぅっ」

縄に挟まれた白い膨らみに指を掛け、先端で円を描いた。

「は……」

これまで見てきた彼の『プレイ』は、相手の要望に応えることに徹していた。
今見ている彼は、自分がしたいことをしてる。
全然違う。こんなの、見ていたって感じ取れる訳がない。

「結衣子」
「あ……」
「我慢出来ない。一回挿れる」
「なっ、あぁっ!」

彼女の返事を待つことなく、瑛二さんはそのまま挿入した。
不意に穏やかな静寂が訪れる。嬌声も水音も肉がぶつかる音もしない。
結衣子さんの甘い吐息と瑛二さんの熱っぽく荒い吐息が同時に吐き出されて、ふたりはまた一段と深く、海へ沈む。
やがて私達のことなど構いもせず律動を始め、欲にまみれた匂いと声で室内が充満していった。

こんなの、彼らふたりにしかわからない。
『抱く』こと『抱かれる』ことは、自身の嗜好を晒すだけじゃない。自身の思考をも晒す行為だ。
互いだけに。だから本来、秘め事とされる。
それを露わにした所で、ふたりの繋がりが強いものであることを見せ付けるだけなのに。一体、なぜ。

「……付き合いきれない」

稜くんが小さく呟いて立ち上がり、障子を開けて出ていった。
私はそれでもその場から動くことが出来ず、彼がいた場所に残された蝶を暫く見つめ、ふたりに視線を移す。
こっちまで呼吸が苦しくなりそうな、深い交わり。
思わず膝を抱いた。私もきっと最後までなんて見ていられない。

「解いて、瑛二」
「疲れたか?」

結衣子さんの頬に触れて、瑛二さんが尋ねる。

「……抱き締められないわ」

彼女がか細く囁いた切実な声に胸が締め付けられて、膝を抱く力を強めた。
瑛二さんはふっと笑みを漏らし、一度自身を抜いて彼女の拘束を解き始める。
先に腕を、次いで胸を、最後に脚を。
全身が漸く自由になった結衣子さんの身体を瑛二さんが抱き寄せ、布団の上に倒れ込んだ。

解くまでが緊縛。ならば、ただのアシスタントの私はもう出る幕はない。
更に深く潜っていくふたりの邪魔をしないよう、でもカメラはそのまま、静かに立ち上がってその部屋を後にした。
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