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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク

食い下がった私に面倒くさそうに髪を掻き上げ、グラスを床にコトリと置く。

「3年前の、梅雨の頃。当時出版社に勤務する傍らでSMバーでバーテンダーとして働いてた。2年程度ね。で、ある日結衣子さんが店に客として来た」
「それが出会い?」
「まあね。とは言えそれだけだったら気に留めない。だけどプレイに積極的に関わるでもなくひと月の間に3回来たから印象に残っていたんだ。その3回目の時、カウンターで彼女を接客した。 当時から彼女は彼女のままでね、雰囲気に当てられて少し参りながら楽しいとも思ってた」
「変わらないんだね。お店のオープン前?勧誘目的?」
「目的としてはそう、知らなかったけど。で、話してたら俺が他の客に指名されてね、縛ったらその客気に入らない、解けって。エゴマゾってやつ。仕方なく解いたら今度は平手打ち喰らった」
「え……いきなり?」
「そ。何も言えずにいたら、見ていた彼女が鞭を一発振るったんだよ。床にだけど。で、ちょっとした騒ぎ」

懐かしむような顔になって、笑みも零れた。
その様子がなんとなく想像出来て、「やだ、それで?」と続きを求める。

「ひと悶着の後、そのまま彼女に連れ出された。タクシーで向かった先は彼女の自宅。縛ってみろって言われて、そのまま」
「そのままって、まさかセッ……」
「それ以外に何がある?」
「縛って感じさせちゃった訳」
「そうなるね。何か彼女の琴線に触れたんだと思うし、俺も感じるものはあった。結果煙草を辞めることを条件に彼女に雇われて、そこから俺たちふたりは関係の継続を望み3年以上経つ。お互いつまみ食いもしながらね」

これまでの普通の男女の付き合いで3年を超えたこともない私には、そういう関係でそこまで続くことすら不思議だった。
ましてや更に、瑛二さんもいる。こちらに至っては10年だ。

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