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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク


そう言って彼は窓に半身を預けて自分の手をぼんやりと見下ろした。
私は意図せず息を詰める。

「プレイも含めて1年くらい。彼女以外」

淡々と、だけど熱っぽく、彼は自身を吐露していく。

「……結衣子さん以外、この腕に抱いてない」

掠れそうな声で告げられたその事実が彼の想いの全てだと悟って、私は小さく頷いた。
稜くんは懺悔でもするように項垂れて私を見る。

「ごめんね、まともにプレイにすら出来なくて。こんな余裕ないと思わなかった」
「そんなのいい」

本当に構わなかった。確かに彼は優しくはなかったけど、こうでもしなきゃ聞けなかった。
向き合う手段は話し合いだけじゃない。

「……ねえ、それってさ。稜くん」

他の人との関係を断ち切って彼女だけの傍にあることが彼なりの誠実さなのだとしたら

「もうちゃんと気付いてるんでしょ」

聡明な彼のことだ。気付いていないはずがない。
それでも傍にいようとすることのつらさも知った上で。
そしてきっと言い出しもしない。自分の想いも、密かに燃やす独占欲も。

「人間変わる瞬間は突然来るんでしょ。あの言葉、稜くんがそうだったんだ」
「よく覚えてるね。やめてよ、ほんとさ……」
「うん。これ以上言わない」

軽やかに立ち上がり、稜くんに微笑みかける。
一瞬ぽかんとされたけど、彼はすぐにいつものポーカーフェイスを取り戻した。
今すぐじゃなくていいから、彼も願ってくれたらいい。誰かじゃなくて自分のことを。
きっと柄じゃないって言うのだろうけれど。

「私お風呂入って寝る。おやすみ、稜くん」
「……おやすみ」

微かに笑ってくれたのを確認して、2階への階段を目指そうと歩き出す。

「ありがとう、ルカ」

背中に掛けられた声に振り返り、小さく手を振って踵を返した。
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