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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク
色々と広い規格の古民家だとは思っていたけど、お風呂もこうだとさすがに驚く。
ちょっとミニマムな銭湯みたいなお風呂の広さ。元々複数名で使用することを想定して造られているそうだ。これが1階にもあるって言う。
濡れた髪を纏め上げて身体を洗おうとすると膝の縄の跡が目に入ってぼおっとなった。
さっき入った私が今夜使う2階の一室は、日中着替えに使われていたことなど思わせない程がらんとしていて、お布団が一式と姿見と私の荷物があるだけ。
結衣子さんはその向かいの部屋が自室らしいけど、人のいる気配はしなかった。
まだなのだろうか。だとしたら、随分と長い。
思っていたら、脱衣場で物音がして引かれたドアから人影が現れる。
「一緒してもいい?遥香ちゃん」
ただでさえ長い一日が、
「結衣子さん……」
もっと長くなりそうな予感でいっぱいになった瞬間だった。
ちゃぷん、と身体をお湯に沈めてほっと息をつく。
奇妙な気分だった。ついさっきまで話題にしていたはずの彼女と今、私が一緒に、向かい合って湯船の中。
「縄の跡を消すには一番いいのよ、少し温めのお風呂に浸かるのが」
ままあることだと言いたげに、彼女は柔らかく微笑みながら告げる。
あんな色々とあった後でどういう顔をしていいのかわからずうまく顔が見れない。
稜くんとのそれを見た時はそこまででもなかったのに、タイミングが悪すぎる。
「撮影はどうだった?」
「えと……面白かったです。勉強にもなったし」
「よかった。瑛二くんとお仕事してるのもあるのかしら、遥香ちゃんは瑛二くんのしたいこと感じ取れるのね。あんなにやりやすそうな彼初めて見た」
顎の辺りまでお湯に沈み込んで、結衣子さんは私を覗き込む。
メイクを落としても殆ど変わらない顔。穏やかに口角を上げて警戒を解き、さらさらと侵食してくる。
結衣子さんのこういう所は、好きだし凄いとも思うけど少し苦手だ。踏み込みやすい場をさらっと作るから。
結局彼女のいるステージに無理矢理引っ張り上げられる気がして。