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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク

ふる、とひと度肩を震わせて、それも敵わなくなった。
凄絶に観衆を見下ろしていた女王が吐露する不器用な心情。
もっとシンプルに飛び込めたはずなのに。本来なら、彼女の望むまま。
ぽろぽろと涙を零す結衣子さんが本当に少女のように見えて、思わず彼女の手を取った。
潤んだ目に見上げられて胸が痛む。

こんな涙、流させちゃ駄目だ。

「……遥香ちゃ」
「出ましょう。結衣子さん」
「っ……」

答えを聞かないまま湯船から連れ出して、シャワーのお湯を丁寧に彼女に浴びせる。
華奢な肩に、背中に触れ、涙に濡れた顔も流し、自分も浴びた。もう無性にやるせない。

「なんで……」
「出るだけです。のぼせちゃうし」

また手を引いて脱衣場へ向かい、タオルを頭から被せる。されるがままの彼女はやっぱり、少女みたい。
大人になる過程の中で取り落としてきた幼さが露呈しているよう。
稜くんの言ってた通り。彼女は、『普通』の女性なんだ。迷いも戸惑いも苦しみもする。
ナイティに着替えた結衣子さんを見遣ると、まだ眉根を寄せていた。

「遥香ちゃん」
「……ちょっと怒ってました。結衣子さんに」

Tシャツに袖を通して彼女に向き直ると、静かに「知ってたわ」と返される。

「でも、聞いてよかったです。結衣子さんもつらいの、わかったから」
「いいわそんなの、怒ってくれた方が私も」
「楽でしょう。でも、知っちゃったら……怒り続けるなんて出来ない」

ずっと硬かった自分の表情がやっと緩んで、私は彼女へ一歩近付き抱き締めた。

「は、るか、ちゃん……?」

湯上がりのぽかぽかする身体。普段は高めのヒールもあって大きく見えるのに、今は私より少し小さい。
結衣子さんを縛っているのは、瑛二さんだ。
何年も掛けて彼が施した綺麗な縄。彼女を綺麗にする為の縄。

私の緊縛のポリシーは、解放すること。

今は縄は持ってないけど、抱くための両腕ならなんとかある。
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