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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク
「結衣子さん。もっと瑛二さんのこと信じて大丈夫です」
アシスタントの私が解くべきじゃないかもしれないけど、あんな涙を流させるのは駄目だ。
抱いてわかることがあるって瑛二さんは言っていた。結衣子さんの変化にだって気付いているはず。
「大丈夫って……」
「もっと稜くんのこと信じて大丈夫です」
抱く腕にまた力を込めた。強張っていた彼女の身体から力が抜ける。
今は傷付いてるかもしれないけど、稜くんは絶対想いを止めるようなことしない。
「……あんなの見せてしまったのよ。それに、遥香ちゃん稜くんと――」
「まあしちゃいましたけど、プレイですらなかったです。傷付きたがってるの見てたらどうしようもなくて」
「稜くんが?」
「でも、終始彼の頭の中には、ひとりしかいなかった」
それは紛れもなくあなただと、伝えるように背中を撫でた。
「……失礼な話ね」
「本当に。だから、後は結衣子さん次第」
身体を離して見つめた彼女の顔は、呆けたようにとろんとした目をしている。
「一歩踏み出して下さい。私に胸張って歩くための服と靴を与えてくれたの、結衣子さんじゃないですか」
それがまた潤んで、ひと筋落ちた。
「もぉ、敵わないわ……」
「そんな泣き虫だと思わなかったです」
「一度外れると駄目なの。弱くなったなぁ……でもありがとう、遥香ちゃん。ちゃんとしなきゃ」
鼻を一度啜った彼女はタオルで涙を拭い、やっと見せた笑顔に私も安堵した。
身支度を整えてそれぞれの部屋に入ろうとした時、「車で言ったこと」と、結衣子さんがぽつりと落とし、振り返る。
「あれは純粋な好奇心で聞いただけ。巻き込みたいとかそういうのも、私の感情とも何の関係もないから」
「ああ……そんな気はしてましたけど。でもどうしてですか?」
「予感ね。もしかしたら、そういう事態になるかもって思ったの。じゃ、おやすみなさい」
「……おやすみなさい」
ぱたんと閉じられたドアに背を向けて私も部屋に入った。
わかったと思えばわからなくしていく彼女は本当に突飛。だけど前より身近に感じる。
「予感ね……」
布団に寝転がって天井に吐き、目を閉じた。
長い長い一日が漸く終わる。思い返そうとする間もなく、気付けば深い眠りに落ちていた。