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女王のレッスン
第6章 ■孤高のキンバク
朝、階段を下りている途中でふわりと漂った香ばしい匂いに眠気が飛んでキッチンに入った。
何かが焼ける音と赤く灯るトースター。開け放たれた冷蔵庫から頭を覗かせたのは卵を持った稜くん。
「おはよう」
私の声に振り向いて、もうひとつ卵を取り出した。
「おはよう。眠れた?」
「ぐっすり。稜くんは?」
「まあお陰様で」
そう言って笑みを見せて背を向け、料理の続きに取り掛かる。
なんのお陰?とは聞かないでおこうと私も頬を緩めてその傍に寄った。
匂いの正体は厚めのベーコンとほうれん草。もうひとつのフライパンに卵が3個加わる。
「自分の?」
「だけじゃないけど。ルカも食べるでしょ」
「食べる。手伝う?」
「じゃあコーヒー淹れて。セットしてあるから」
「わかった。稜くん朝からいつもこんなことしてるの?」
「ひとりならもっと適当だよ。今日はまあ、材料もあるから」
「ふうん。卵3つだしね。稜くんと私と……」
思わずニヤニヤと彼を見上げると、とってもウザそうな顔で見下ろされた。
マグカップは3つ必要だな、と食器棚に向かう。
「リクエストされてただけだ。買っておくから朝食作ってって」
「何も言ってないよ私」
「あーウッザ。やっぱ言わなきゃ良かった……」
爽やかな朝から盛大な溜息を吐いて稜くんは私から目を背け、フライパンに向かった。
コーヒーを注ぎながら笑みが止まらない。
「さっき洗面所で会ったよ。もうすぐ下りてくると思う」
「ああそう」
「それとね、稜くん」
一歩彼に近付いて見上げると、鬱陶しそうにしながらも「何」と視線が合わさった。
「稜くんに向き合おうとしてるよ、結衣子さん。だから、稜くんからも大丈夫って言ってあげて」
小さな声でこそっと言って反応を窺うも、相変わらずの無表情。
余計なことだったかな、と僅かに詰まる。
「何。なんか話した?」
「少しだけね。昨日の、戸惑ってたから」
「そりゃそうでしょ。それでも彼女は手放せないから今こうなんだ」
「思い込んでるだけだよ。稜くんだってちゃんと彼女に聞いたことないはず」
じっと見上げると彼は面白くなさそうに片目をすがめて私を見下ろした。
でも、気にしない。だって絶対、大丈夫だし。
「なんだよそれ……ほんと君って……」
「私なりの、稜くんへのエール」