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女王のレッスン
第7章 ■最後のレッスン
「これでも普通に幸せが欲しくなった時期もあるのよ、随分前だけど。その時だったらきっとついてった」
「迷わず?」
「迷わない。だから言ったんじゃないかしらね。『好き』って。『私はあなたと付き合いたい』って。例えそれが受け入れられなくてもね」
いつか問われた恋人の定義。
関係性に一度名前を付けたら、本当に始まる。『恋愛』として。
「……変化を恐れなかった時期、ですか」
「そうね、S転する前が一番怖いもの知らずだったかも」
「口説いてきた人に腹立てて首齧ったんでしたっけ」
「タイミングは縁って本当よ。彼がいなかったら私はこうはなっていなかった。遥香ちゃんに例の彼がいたみたいに」
嘆息したところで視界の端でカーテンがさっと開く。
長身を半分覗かせて、稜くんが「入っても?」と窺った。
「もちろん。お仕事終わり?」
「一段落ってとこです。俺も写真見たい」
後手にカーテンを閉めて彼はソファ側へと歩みを進める。
「どうぞ。なかなか素敵だったわ」
「でなきゃ困る。文字通りみんな一肌脱いだ訳だし」
「あら皮肉屋さん」
「このくらい許して下さい」
喋りながらまともに顔を合わせてもいないのに、ふたりとも笑みを浮かべていた。
話が出来たのだろうか。これからは、優しくし合えるように。
稜くんは向かいのソファに座り、PCを膝に載せて真剣な目をモニタに向ける。
「結衣子さん。その彼になんで腹立てたんですか?怒るイメージあんまりないのに」
「彼女持ちを隠して口説いてきた男の子だったのよね。その時点でだいぶ気に入らなかったけど、帰り際の駅の構内で急にキスされたのがとても腹立ったの。いっそ痕でもつけてやろうかと思ってつい噛んでね。そしたら彼、喘いだのよ」
「うわぁ……それで彼がマゾだと?」
「わかっちゃった。そしたら急に自分の中に不思議な情愛が湧いて聞いてみたの。『彼女はこのこと知ってるの?』って。予想通り『誰も知らない。言える訳がない』って。この彼の嗜好を知っているのは自分だけって優越感かしらね。彼の足の間に太腿を割り入れて擦り上げたわ。もう、ガチガチだった」