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女王のレッスン
第7章 ■最後のレッスン
言ってしまえば、たかがキスだ。
自分の作品に記すサインみたいなもの。カナちゃんや結衣子さんにしてたのと同じ。
自然で、当然で、そうされて然るべきで。
身を完全に委ねたせいだろうか。受け入れてしまうのは。
もしもこれに彼の更なる衝動が加わったら。
「吊り縄解く時は絶対片手は吊ってる縄掴め。落下事故はこの時が一番多い。最初の内は必ず補助出来る人間に傍にいて貰うようにな」
拒絶出来ない理由がわかる気がした。自然なんだ。
瑛二さんはどこまでも受け手に寄り添うから、縛られてることすら服の一部みたい。
触れられることすら、自分の一部みたい。
「下ろす順は吊った時と逆な。腰解いたら脚」
支えられながら右脚が床につく。次いで左脚。
それらに体重が載ったのを瑛二さんは確認して、私の上体をゆっくりと起こした。
「眩んだりしてないか?」
「だい、じょうぶ」
眩んではいないけど、ぼおっとする。
目を何度か瞬かせてる内に背後で胸の吊り縄が解かれ、座らされた。
「最後の説明、ちゃんと聞いてた?」
「……落下事故の防止と補助と下ろす順番」
「ならいい。気持ちよかったか」
言われて、今更になって、ああ、そうだったんだ、なんて実感が湧いて頬が熱くなる。
しゅるしゅると解かれていく縄の感触を感じながら、こくんと頷いた。
「だろうねぇ」
「凄いね、瑛二さん」
「そうか?本当に凄いのは、こうやって縛られていながらどこまでも自由になれるマゾヒストたちだと思うけどね」
「自由?」
言葉をリピートし、振り返って瑛二さんを見る。
彼は片側の口角をぴくりと動かして「結局は」と続けた。
「俺は緊縛している状態を作り出しているに過ぎない。そこから先は彼女らの脳の中、イマジネーションの世界だ。こっちは自由を奪ってるのに、イマジネーションの世界で彼女らは自身を好きなように生きてる。自由になりたくて彼女らは縛られたいと願うんだ」