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女王のレッスン
第7章 ■最後のレッスン
「……あ?」
瑛二さんの目が見開かれて、漏れた声はなんとも間抜けな調子だった。
「……あ、別に今とかこの後すぐとかじゃなくて」
「そうは思ってねえよ」
驚いたのか、彼は怪訝な顔のまま手元にあった縄を手にして束ね始める。
慣れているからするすると纏めていくけど、視線は彷徨っていた。
そんなに意外、だったのだろうか。
無言のまま私も縄を束ねていたら、盛り上がるテーブルの方から暫く向こうにいた稜くんがステージにやってきた。
「もう終わる?ふたり見てたのか吊られてみたいって人がいるんだ」
「わかった。瑛二さん、終わるよね?」
「ああ」
「縄束ねたら端置いといて」
それだけ告げてまたテーブルの方へ戻っていく。
誰が縛るのかな。見て行こうか、でも忙しそうだし心なしか帰りたい気もする。
最後の縄を持って瑛二さんを見た。相変わらず手元の周りに視線を落としたまま、口を開く。
「……意味、わかって言ってるんだな?」
低い声はとても静かに私に問い掛けた。
「もちろん」
「覚悟の上か」
「何を今更」
「少し考えるよ」
即断出来ない程度には、戸惑わせてしまったらしい。
「……うん」
「帰る。また金曜に。土曜は同行も」
「大丈夫」
立ち上がった彼は、「じゃあな」と残してカウンターのスツールに掛けていたジャケットを手に店を出た。
ドアの開閉音に気付いた結衣子さんが首を伸ばしてこちらを窺ったけど、お客さんじゃないことを手振りで伝え、私も立ち上がってステージを空ける。
そんなに?と驚きもする。軽口で抱いてやるとかなんとか言ってきてたのに。
それ程まで『綺麗にして』というワードは、彼を揺さぶるものなのだと改めて知った。