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女王のレッスン
第7章 ■最後のレッスン
手を伸ばして背表紙を傾け、そこで躊躇った。『勝手に暴くな』と言われた記憶が頭をもたげて、やっぱり戻そうと指に力を込める。
「いいよ、見ても」
突然の声にびくっとして振り返った。手に数束の縄とカメラを持って、猛禽類は目敏く私の指先を見ている。
「今と大きくは変わらないけどな、10年前も」
意地悪くククッと笑って瑛二さんは後手にドアを閉め室内に入った。
いいの?本当に?声が出せずに戸惑っていたら、彼はベッドに座って私の手の上からアルバムを取る。
「あ」
「ほら」
開いて渡された最初のページには、物憂げに一点を見つめる随分幼い印象の結衣子さんがいた。
髪はストレート。顔は殆どそのまま。だけど、眼光が違う。刺々しい。
「喧嘩でもした後?」
「いや、出逢った当初はずっとこうだったよ。角が取れたのは一緒に暮らしてからだな」
「え?同棲してたとか初耳」
「同棲、ってか同居ってか。転がり込んできたんだ、当時住んでた家に」
「へぇ……それで?暫く一緒?」
「3年くらい住んでS転するって出ていって1年して戻ってきた。でまた1年したら家買って出てった。猫かなんかと住んでる気分だったね」
「平気だったんだ。瑛二さんそういうの嫌がりそうなのに」
「最初はな。まあ放っておけなかったのが一番大きかった」
ぺらぺらと捲るごとに徐々に増えていく、結衣子さんの表情と動き。アルバムの半分近くまできた時、唐突に現れた青空と花畑の眩しさに目を細めた。
その中心に咲く満面の笑みをとても魅力的だと思うと同時に、あの泣き顔が思い出されて胸が痛む。
突然手にしたそれがとても重く感じた。彼女が、そして瑛二さんが手放そうとしている10年分のかけがえのない時間。
稜くんと想い合ってるなら成就して欲しい。だけどそしたら、瑛二さんは。