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女王のレッスン
第7章 ■最後のレッスン
私の戸惑いをよそに、瑛二さんは平然と言い放つ。
脳裏に浮かんだあの夜の、稜くんのつらそうな顔も、結衣子さんの涙も、瑛二さんは知らないと思ったら
怒りを覚えた。
ぎり、と奥歯を固く噛んでキッと睨みつける。
「っ何それ酷い!あの時稜くんだって傷付いてたし結衣子さんも泣いて」
「それがなんだって言うんだ?」
「そんなっ!わざと傷付けるような真似しなくたって――」
「でなきゃ俺には稜がどこまで本気で結衣子を想っているかわからない」
「カナちゃんのこと忘れた訳じゃないでしょ!?」
「お前同じこと言うんだな。結衣子と」
冷たい笑みさえ浮かべた言い方にドキリとして息を飲む。
昂った感情に冷や水を浴びせられて言葉に詰まった。
もう結衣子さんも知ってるの?試したことも全部?
それじゃあ、もしかして。
彼女も瑛二さんも
答えを、出して……
「忘れる訳がない。でもそれで折れるような男に結衣子を任せるくらいなら俺が攫うだけだ。家も店も奴隷もアトリエも、全部置いて俺と来いってな」
優しげな声音に反して宿るのは、強い意志。
結局全て、瑛二さんの計算。
しかも、捨て身の。
「なに、それ……」
やっとの思いで出た声が震え、驚きに目を見開いた。
連れて行くなんて生温いことはしないと。
お店があろうがなかろうが、関係ないと。
いつも曖昧なくせにそこまで想っていながら
瑛二さんは覚悟そのままに身を引こうとしていて、
「何を驚く?それだけのことしたんだからその程度の覚悟は持ってた。まあ、幸い不要になりそうだけどね」
自分の意志は、稜くんに託すなんて。
本当は自ら幸せにすることも出来たでしょ。
真っ直ぐ想いを伝える機会はいくらでもあったはず。
なのに……
「……なんでお前が泣くんだよ」
勝手に滲み出した涙は止められなかった。
「だって……」
あれだけ近くにいたはずなのにすれ違う。
本当に、ほんの少しずつのタイミングの違い。
だけどそれが『ふたり』を別つ。
深く、深く。