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女王のレッスン
第7章 ■最後のレッスン
「ほんっとーに忘れ物ない?」
「何回目だそれ、ねえよ」
とうとう訪れた旅立つ日はクリスマスも間近に迫り、街が活気に溢れて浮足立っていた。
車の中から見るそれはどこもキラキラと輝いて、期待と忙しさを感じさせる。
「私に渡す鍵は」
「あー、危ねえ。ほら」
ポケットからぶっきらぼうに突き出されて軽く睨んで受け取ると、素知らぬ顔して「よろしく」と付け足した。
「アルバム見るよ」
「勝手にしろ。あとこれもやる」
「何?」
再び差し出した手の上に載せられたのは何度も使ったあのコンデジ。
「いいの?」
「ああ。データは動画以外そのまま入ってる。うまく縛れたら撮って共有するといい」
「わかった。ありがとう」
膝の上のバッグにそれをしまい、停まった車の中で軽く息を吐いた。
見送りに行ったはずなのに、車に詰め込んだ荷物と一緒に結局私までマンションに送って貰ってしまって、おかしいな、と隣の運転席を見遣る。
「ねえ、本当に結衣子さんたちに会っていかないの?」
「散々会ったからいいよもう。早く降りろ」
「何よ意地っ張り。いいよもう。電話しちゃう」
言うが早いかポケットからスマホを出して、結衣子さんの電話番号をコールした。
「余計なことすんなって、おいルカ!」
鳴り始めた呼び出し音。掴まれそうになった手をあしらって応答を待つ。
スピーカーに切り替えてワンコールで、通話開始のカウントが始まった。
「はいはーい」
掌からいつもの明るい透明感のあるソプラノが聞こえてくる。
横からは小さく舌打ち。本当に意地っ張り。
「開店前にごめんなさい結衣子さん。瑛二さん出発するから電話しちゃいました」
「あら、瑛二くんそこにいるの?」
「いたらなんだよ」
「冬タイヤ履いた?」
「……あ」
「うわー。忘れ物ないか散々聞いたのに」
「お察しするわ、遥香ちゃん。ほんと気を付けなさいよ、風邪とかもね、これから寒くなるし」
「へーへー」
「もぉ。絶対よ」
「まあ適当に連絡するわ。気が向けば」
「期待してないけどそうして頂戴」
「あー、あと縄か。ユイ、傷んだら言うから途中で送ってくれ」
「はいはい。あ、稜くん。瑛二くんになんか言う?」
「写真の件よろしくね」