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女王のレッスン
第8章 ■女王のドクリツ
「ごめん、途中だけど出てきていい?」
「うん」
満くんの背後から立ち上がってモニタを見に行った。郵便っぽい。応答ボタンを押して返事をする。
「郵便局です。下のポストに入らない郵便物がありまして。お伺いしてもいいですか?」
なんだろう。大きめのカタログとか?
「はい、お願いします」
スイッチを切って彼の元に戻り、続きを解いた。
脱いで貰ったTシャツを返して、玄関を気にした所でチャイムが鳴り応対する。
郵便だからサインの必要はなく、そのまま受け取って局員の人は帰っていった。
厚手の茶色い紙に包まれた大きなそれに、見覚えのない手書きの宛先。
裏を返して、差出人の名に目を見張った。
「……千堂瑛二」
呟いて、大して長くもない廊下を駆け部屋に戻る。
鋏……じゃ駄目だ。ペーパーナイフをペン立てからもどかしく手にして隙間から丁寧に割いていった。
「遥香ちゃん?」
満くんが傍に寄ってきて覗き込む。だけど構ってなんかいられなかった。
瑛二さんが私に送って来るものなんて、ひとつしかない。
あの日、アトリエから始まった彼の軌跡。
瑛二さんの写真集――。
『Butterfly Effect』と題されたその表紙は、予想通り蝶を口に止まらせたモノクロームな結衣子さんの横顔だった。
蝶の青と彼女の唇の赤だけが鮮やかな色彩を放つ。
「それもしかして瑛二さんの?」
「ちょっと黙ってて」
震えそうな指先でぱらり、と捲った。
美しいモデルたちの陶器みたいな白い肌とそれに容赦なく絡み付く麻縄。
どれも見目麗しいその先は、知った顔。囚われの蝶を模したカナちゃん。レースのリボンで目隠しされて可愛らしくも妖艶。
見開きのページにはまさに隣にいる満くんと稜くんがいる。スーツ姿でぐるぐると縛られた彼ら。
思わず実物と交互に見比べた。
「わーお。なかなかイケてる」
「うん。ああ、次は首と手首繋いだやつ」
こちらも見開き。背徳感いっぱいなのに、真っ白い背景の不釣り合いさにどきりとする。