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女王のレッスン
第8章 ■女王のドクリツ
ちょっと呆れ顔を覗かせて結衣子さんは私を招き入れる。
微かに聞こえるメロディアスなロックミュージック。お邪魔しちゃってないかと邪推する。けど。
「居ても立っても居られなくて……」
バッグからちらりと見せた写真集に彼女の目が留まり、「ああ」と納得の声が漏れた。
にこりと優しげに微笑んで、彼女は長いウェーブヘアとフレアスカートを翻す。誘われるような甘い香りが鼻先をくすぐった。
店内の涼しさにほっと息をついて、結衣子さんが消えたL字の向こうへ行く。
マットの上には一心に手を動かす稜くんがいて、ふたり分の足音に顔を上げた。
「ルカ」
「来ちゃった。暑かったぁ……」
床やテーブルに散らばる色とりどりの折り紙と紙製のオーナメントに輪飾り。七夕の準備をしていたみたい。
傍らに立ってる青々しい笹竹に季節の移ろいを感じた。稜くんは短冊を手にし、開いた穴に糸を括り付けている。
「ねえ稜くん、その続き代わるから冷たいの貰っていい?」
「ん。雨降ってなかった?止んでるの?」
「止んだわ。気温が一気に上がったみたい」
「それはそれでやだなぁ……」
ぼやいて立ち上がった稜くんのいた場所に座り、短冊と糸に手を掛ける。
結衣子さんはペンを手にして、黄色い短冊に達筆な字で『商売繁盛』と書き記した。赤の『千客万来』も既に隣にある。
「で、見た?」
「はい。結衣子さんも?」
「もちろん。綺麗にしてくれちゃったわね」
そう言って彼女は穏やかに微笑み、テーブルに頬杖をついた。
「どう思ったの?遥香ちゃんは」
「同じです。綺麗って。でも、結衣子さんのページのあの文字」
「ああ、ねえ、あの白抜きのひと文字、取り敢えずユイって読んじゃった。紛らわしくて嫌になっちゃう」
「瑛二さん、もしかしてまだ……」
結衣子さんのことを、と思ったそれを飲み込んで俯く。
だけど彼女はその続きを汲んで、「そういうのじゃないわ」と言い切った。