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女王のレッスン
第2章 ■縄師のテホドキ
スマホ片手に5階建てのマンションを見上げた。
うちから電車を使って20分。691にも一本で行けるような場所。
名刺の連絡先にメールをしたら、691が休みだからこの住所に来いと言われたのが2日前。
17時という時間に決まったのが昨日。ここが自宅兼スタジオと聞いたのはつい3時間前。
連絡があまりつかないタイプの人らしい。
少し年季が入った感じのレトロな雰囲気のそこに、猛禽類の巣がある。
日曜は柊平と普通に会った。朝から映画観て、ランチして、家に行って話をして。
691での話は講習会のことだけ。
彼の顔を見てもやっぱり何も湧いてこなくて、だけど普通なまま。
『案外そういうもん』って言われたけど、その通り過ぎて肩透かしを喰らった気分だった。
そんな想いを味わわせた本人がここにいる。
エレベータで3階。ドアの脇のチャイムを鳴らした。
「はい」
スピーカー越しの低い声。
「遥香です」
「おお、来たか」
一体どんな部屋なんだろう。縄と鞭とで溢れてるとか?数秒待ったらドアが開いた。
「悪いねわざわざ。どうぞ」
タンクトップとジーンズという楽な格好で、瑛二さんは私を中へ招き入れる。
「意外と近いから平気。今日もお願いします」
「まだ雑用が残ってんだ。適当に待っててくれ」
「はーい。瑛二さん甘いもの好き?」
「量は喰えないけど。何、それ差入れ?」
靴を脱いで持っていた白い箱を差し出した。
「家の近くのケーキ屋さんで買ったエクレア。美味しいの」
「おー、ありがたいね。ルカはコーヒー平気?雑用済んだら淹れる」
「わあ、嬉しい」
箱を手に進む瑛二さんの後について廊下の中扉を抜けると、モノトーンなリビングダイニングが拡がった。
窓の横の壁には撮影用のスクリーンと照明機材。反対側には有孔ボードにたくさんのフックとそれに掛かる麻縄や綿ロープ。
作業机には資料の山と書類。
壁には緊縛写真がきちんとフレームに収まって飾られている。
オープンキッチンのカウンターにスツールが2つ。いまいち生活感を感じない。