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女王のレッスン
第2章 ■縄師のテホドキ

「向き合う対象は自分も他人も関係ない。ミツはどうだった?あいつは相手の望みに合わせて変幻自在にスタイルを変えられる特異な奴だ」
「驚いた。初体験って設定したと思ったらほんとにその通りみたいに振る舞ってた

「ああ、そりゃ悪趣味な程ぴったりだな。それがミツなりのその時のルカへの向き合い方。本人はそういうのすら楽しんでる」

フッと鼻で笑い、エクレアの続きをぺろりと平らげた。
性的嗜好なんて考えたこともなかったけど、あの日縛られたそれは確かに気持ちいいと感じてしまった。
私はM、ってことになっちゃうんだろうか。

「彼氏のそれはなんで知った?」
「部屋で緊縛写真見つけて、聞いちゃった」
「勝手にかよ……性質悪ぃ」
「なんで……!」
「そういうのは言われたり気付いたりしてからでいいんだよ。いきなり聞くとか痴漢されるようなもんだ」
「う……」
「そうやって素直に生きてこれたのはある意味幸せだな」

嘲るようにも聞こえばつが悪くなって、気まずい思いでコーヒーを飲む。
味がわからなくなりそう。ただただ苦い。

「自分に向き合うことが緊縛の第一歩。誰かを縛るのはそれから。お前はほやほやし過ぎ」
「ほやほやって、失礼な……」
「でも否定は出来ないだろう?彼氏もミツも先に暴きやがって。聞き出すのはいいが順番が間違ってんだよ」

咎められた風ではないけれど、強い口調に肩を竦めた。
言葉が痛いのは、多分私が自覚もしてたからだし、彼がずっと向き合い続けてきたから放つ言葉でもあるからだろう。
そしてきっと、誰かと向き合ってきてもいたからで。

「……喰ったらやろうか」
「はい。え?でも誰を?」
「俺」
「は?」

持ったエクレアを取り落としそうになった。
そんな真面目くさった顔で、『俺』って。

「聞こえなかったか?」
「聞き間違えたかと思ったんだけど」
「間違ってねえよ」

スツールをくるりと私に向けて、腕と足を組んで見せ、不遜な態度で彼は告げる。

「他に誰がいる?俺を縛ってみろって言ってんだ」

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