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女王のレッスン
第1章 ■最初のレッスン

金曜日の昼。
私は事業戦略部の同僚で同期の木崎真緒と社食でランチをしていた。
彼女は肩の辺りでふわふわくるんと巻かれた茶色い髪を時々耳にかけながら、オムライスを口に運ぶ。
低身長と高めな声も手伝って、カナリアみたいな印象の子。
色が乗りにくくて巻いてもすぐ落ちる黒髪ストレートの私には、それがなんとも羨ましい。
焼き魚定食を綺麗に片付け、満腹感にひと息ついた。
この暑い中うちの社食が案外いけてるのはありがたいことだ。

ひと通り食べ終えた頃、真緒は「ところでさ」と切り出してきた。

「戸田さんのあれ、凄かったね」
「何の話?」
「こないだの若手コンペで優秀賞だったって」
「ああ、全社ネットで出てたね」
「なんか冷めてるねー。嬉しくないの?彼氏の栄誉」
「嬉しいけど、それで私がどうなるって訳でもないし」

『そういうもん?』と言いたげな真緒をよそに、傍らに置いたサーバーの薄いお茶を飲む。

「お祝いとかしないの?」
「考えなくもない……程度かなぁ。本人から聞いてから決めるよ」
「有望株だよ?将来とか考えちゃうなぁ、あたしなら」
「将来、って……結婚?」
「もちろん!そのくらいの見返りなきゃあんな就職戦線戦えなかったよ〜。そこそこ大手に決まってほんっとよかった」

溜息を吐きながら真緒は両手で頬杖をついた。
そう言えば私も何かがしたくてこの会社に入ったはずなのに、いつの間にかそういうの忘れてる。
入社3年目。定年までなんてとても遠い。


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