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女王のレッスン
第2章 ■縄師のテホドキ


どれだけそうしてたかもわからなくなった頃、我に返って顔を上げた。
涙を拭い呼吸を整えて、恐る恐る気配のする方を見遣る。
柊平は既に服を着て、ラグに置かれたクッションに座って私を見ていた。

「……大丈夫?」

なんでこんな時にまで、私を気遣ってんだろう。お人好しが過ぎるでしょ。

「……うん」
「話せる?」
「ごめん、今は……」
「わかった。じゃあ今日は、もう、帰って」
「……そうする」

無造作に置かれたままの縄を手繰り寄せる。
折角覚えたのに、本当に何をしてるんだろう。
ふらつきそうな足をなんとか踏みしめて、バッグを手にして放り込んだ。
ポケットから覗くこの部屋の合鍵が目に留まる。付き合って3ヶ月記念で貰った鍵。
キーホルダーから外してテーブルに置いた。

「本当に、ごめんなさい」

最後なのに目も合わせられなかった。

部屋を出て階段を駆け下りる。外は既に夕闇。
せめて鏡を見てくればよかった。電車乗れるかな。
立ち止まって鏡を出した。この暗さでもわかる、腫れっぽい目。
18時過ぎ。大通りに出てタクシーを呼び止め自宅付近のランドマークを告げる。

瑛二さんの言ってた意味が、漸く少しずつわかってきた。
最初の講習の日、既に私の気持ちは離れていて、それが言動の端々に現れていたはずだ。
だから瑛二さんはそれを指摘しただけのこと。

抱いたらわかる。
それどころか、抱こうとしただけで気付いてしまった。
いつからだろう。マンネリなんて都合のいい言葉で片付けて見ないようにしてたのは。
だけど退屈を感じていた節はある。
緊縛講習は楽しかったけど、あれは彼の為という名目でいながら
あの技術と世界観そのものに私が勝手に惹かれてた。
彼に一切目もくれず。

長い長い溜息を吐いた。
明日は会社がある。
隣の部署でひと続きのフロア。嫌でも顔は見る。
ああ、いっそ休んでしまおうか。
話もしなきゃ。望んでくれるのなら、だけど。
向こうの家に置いてある私物は、何があったっけ。
ケア関係の消耗品と、部屋着?
情けなさがまた溢れて、涙になる。

ほんと私、何やってんだろう……
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