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女王のレッスン
第2章 ■縄師のテホドキ

ぼんやりと見ていた窓の向こうに、記憶に新しい景色が見えて、瞬きをした。
電車だと乗り継ぐけど、車ならそんな距離じゃないんだ。

「……止めて下さい」

声が、考えるより先に出ていた。

「え?でも行き先は……」
「用事、思い出して……」

タクシーが歩道に寄せられる。支払いを済ませて外に出た。

考えなしに訪問した所で、迎え入れてくれる程甘くない、とは思う。
きっと容赦なく問い詰めてくるはず。
何と向き合おうとしているのかと、その動機を。
このまま終わるなんて嫌だ。
緊縛術は覚えたい。あの背徳感と耽美的な世界が私を惹き付けて離さない。
そしてそれを使うなら、出来れば誰かを傷付けるのではなくて、解放するために。

昨日も見上げたマンションを前に立ち止まった。
エレベータで3階。ドアの前で、インターホンを鳴らす。
いるだろうか、こんな微妙な時間帯に。
休日とか仕事とか、どうなってるのか何にもわからないけど。
逃げ出したくなる気持ちを抑えながら立ち続けた。
これがいないならいないでホッとしてしまうんだろうな、と自嘲気味に笑う。

「……はい」
「あ……」

呼吸が整わなくて息を呑んだ。
声を聞いた途端に怖くなる。なんで来ちゃったんだっけ。
名乗ることが出来ないでいるとインターホンがぷつっと切れて、静寂が訪れた。
情けなさもここまでくると嫌悪感でしかない。
もう一回、鳴らす?思ったけど、持ち上げた手を見下ろすと震えていた。
また視界が滲んだその瞬間、ドアが開く。


「……おい」

怖々としながら顔を上げる。
ドアから姿を覗かせた瑛二さんは一瞬目を見開いたけど、
見たくないものを見たかのように顔を背けてあからさまな溜息を吐いた。

「連絡しろっつったろ……」
「なら、帰る……」
「……いい。入れ」
「でもっ……」
「じゃあなんで来た?」

上から凄まれて唾をごくり、と飲む。

「……愛してなかった」
「だろうな」
「もう……っ二度とそんな人、生み出したくない……」
「……それで?」
「ちゃんと……向き合えるようになりたい……」

また涙がこぼれそうで歯を食い縛った。
瑛二さんは肩を竦めてみせ、身体でドアを大きく開ける。
私は吸い込まれるように、その中へと歩みを進めた。


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