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女王のレッスン
第3章 ■奉仕のセンセイ
地上に出て5分ほど歩いた所にある、クラブが多く入る雑居ビルの1階、奥まった所
『8 Knot』と書かれたドアの前で瑛二さんは立ち止まる。
垂れ下がっているのは『CLOSED』の看板。
「……エイトノット?」
「そう」
「閉まってますけど」
「中にいれば出てくるよ」
意に介さず、瑛二さんはドアの横のインターホンを鳴らした。
静寂、そして
「はぁい」
透明感のあるソプラノな声。
「俺」
ただひと言だけ瑛二さんは告げると、インターホンが切れた。
思わず訝しげに見上げると、「なんだよ」と言わんばかりの視線が返ってくる。
「瑛二くん?昼間来るなら連絡してって……」
ドアの向こうから現れたのは、艶のある栗色の長いウェーブヘアを揺らす、可愛いと綺麗を同居させた小顔の女性。
特別美人、て訳じゃないけど、醸し出す雰囲気に同性ながらドキリとした。
「……あら?こんにちは」
「こっ……こんにちは……」
「今いいか?」
「いいけどまた女の子拾ったの?」
「人聞きの悪い。アシスタント予定だよ」
彼女の開けるドアを摺り抜けて、瑛二さんは遠慮なく中へ入っていく。
「……お察しするわ。どうぞ」
呆然としている私に微笑んで、彼女は私も招き入れた。
「お邪魔、します」
入ってすぐに横に広がるバーカウンター。
右手は空間が開けて壁は朱色に彩られ、床や天井の梁や垂れ下がるフック、壁の境界線の黒が際立って見える。
「こっちよ」
横を過ぎ去った瞬間漂った、品があるのに誘われるような甘い香り。
ふわりと広がったミモレ丈のフレアスカートとパフスリーブブラウスという出で立ちは、私が描く『女王様』のイメージからはかけ離れていた。
後についてL字に折れた先には10人以上座れそうなソファと長いテーブル。スツールが3つ。低くて長いマット。瑛二さんはそこに足を放り出して座ってる。
ソファの背の向こうは小上がりになっているのだろうか。位置が少し高い。
壁に挟まれて格子がはめられ、その先に大きなベッドが置かれていた。