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女王のレッスン
第3章 ■奉仕のセンセイ

見つめ返して、思わず瑛二さんを向いた。

「お前が彼氏にしてやれなかったことを学べる場所だよ。身内贔屓かもしれないが、ユイはずっと自分や他人と対峙してきた人間だ。同性故にわかることも多いだろ」
「うちの子もみんないい子たちだしね」

その為に彼は、私を連れてきたんだ。

「来ます。ここに」

考える前に、答えが出ていた。

「今そんな仕事忙しいわけじゃないし、来たいです。色んな人に、出会うために」

決定的に私に足りない経験。簡単に手に入るとは思えないけどそれでも。
女王らしからぬ女王様は、私に穏やかに微笑んだ。

「休みは日曜と月曜よ。開店は19時から、ラストは適当だけど、好きな時に来て好きな時に帰るといいわ」
「わかりました」
「で、遥香ちゃんは緊縛出来るのよね?」
「はい。と言っても三点留めだけですけど……」
「十分。それじゃちょっと見せてもらおうかな」
「え?」

結衣子さんは徐ろに立ち上がって、また店の向こうへ向かおうとする。

「講習4回よね?まあ、平気でしょう……」
「はい。でも、え?」

状況が読めなくてまごつく私を置いて、結衣子さんは入り口の方へ消えた。
瑛二さんを見ると、視線が合った後黙ったまま目を伏せられてしまって、それ以上の言葉を掛けることを躊躇う。
何が起こるかわかっている、のだろうか。
そうこうしてる間に結衣子さんは戻ってきた。右手には麻縄。左手にはヘアクリップと鋏。

「あの……?」
「ここでも使ってるから手入れは問題ないものよ」
「結衣子さん?」

細い右手が差し出された。

「私を縛ってみてくれる?」

まるでこれからご飯でも食べに行こう、と誘うかのように、自然に。
驚いて瑛二さんを見たけど、無表情のまま。

「縛れって本人が言ってんだ」

やってやれと言いたげに告げられ、答えに窮した。

「それとも彼で失敗したから怖い?」
「それは……ないと言ったら嘘になりますけど……」
「ならリカバリは早い方がいいわ。失敗して困る相手じゃないでしょう?」
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