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女王のレッスン
第3章 ■奉仕のセンセイ
返事をする間もなく渡され、目を通してみる。
淡々と綴られる言葉は静かでいながら背景が伝わって来るようで、読み入ってしまう。
別紙のチェック欄に手書きのサインで『小峰 稜』とあった。なるほど、稜くん。
「オープンから一緒にいるのよ。バーテンダーだけどサディストだから、縛られたい女性が来た時に出てきたりもする」
「へぇ……でもファンがいそうな顔立ち」
「彼目当てに通う子もいるわ。女性は女性に触られるのに抵抗ある人もいるから貴重ね。用心棒にもなるし」
「そうですか……。あ、これお返しします」
ラフを返すと、結衣子さんは思いついたようにパッと顔を上げた。
「そうだ、遥香ちゃん。ちょっと立って」
「……?はい」
言われて立ち上がると一緒になって並んで立ち、「失礼」と言って私の胸骨や手首、腰などをペタペタと触る。
目を覗き込んだり、髪に触れたり、されるがままになって、漸く解放された。
「ふうん……」
「あの、結衣子さん?」
「遥香ちゃんお買い物好き?」
「買い物ですか?……人並みには」
「明日って予定ある?」
「いえ、特に……」
それを聞くと、結衣子さんは小首を傾げ
「明日昼過ぎから付き合ってくれない?」
男性なら間違いなく嫌と言えなくなりそうな微笑を浮かべて言った。
「……好きだね、ユイ」
「いいじゃない。これも自分と向き合う方法よ?」
「あー勝手にしろ。ルカ、嫌じゃなかったら付き合ってやって」
「は、はぁ……」
「私の連絡先はさっきの名刺。あと、明日は自分が一番好きな格好をしてきてね」
呆れ顔の瑛二さんと楽しそうな結衣子さんに頷くしかない私。
真逆なのに、このふたりは決定的な共通点がある。
自分の世界に、有無を言わさず他人を巻き込める力強さ。
圧倒されそうなのを堪えるのに必死になりながら、その場で立っているのがやっとだった。