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女王のレッスン
第3章 ■奉仕のセンセイ
「何も謝ることはないわ。ただ、説明しづらいから曖昧にはなるけれどね」
「いや、もう、言いたくなければそれで……」
「気になってるんでしょう?」
くすくすと口を抑えて、上目がちに私を覗く。
私は頬を挟んだまま、小さく「はい」と頷いた。
「その素直さに触れるとなんだか心が洗われる気がするわ。予想する関係性は?」
「……元、恋人……ですか?」
「じゃあ遥香ちゃんの思う恋人はどうやってなるもの?」
カウンターに頬杖をついて、少し低い位置から結衣子さんは問う。
まるで心まで覗かれそう。
恋人のなり方?
「……告白、して、『付き合いましょう』って」
「じゃあ恋人じゃなくなるには?」
「『別れましょう』じゃないですか?」
ついこないだした、その当たり前のようなやり取りを答えにした。
私のそれに嬉しそうに微笑んだかと思ったら、今度は切なげになる。
これまで出逢ってきた誰よりも、表情の変化が多い。揺さぶられてしまう。
「その定義で言うなら、私達は恋人として始まってもなければ終わってもいない」
「え……?」
「それに近しいことをしていた時期は確かにあるの。でも離れもしたし、逆に近付きもした。さざ波みたいね。それが私達」
「じゃあ、主従とかでもなくて……?」
「プレイとして試みたこともあったけど無駄だったわ。お互い未熟でねぇ」
「そう、ですか……」
「だから今は適切な距離感、とだけ。瑛二くんに聞いても多分同じような答えが返ってくると思う」
結衣子さんの言うことは、私の問いの答えとしては十分過ぎる気がして、長い瞬きをした。
これまで好きとか嫌いとか無関心とか、そういう表面的な感情にばかり気が向きがちで。
相手を見ようとしなくなることがたくさんあった。
距離だって見えなくなる。
だけどふたりは自分達の関係性に名前すら付けずに、互いを想い合っている。