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毒蜜喰らわば
第13章 別れも幸せも成就
社務所の裏手に回り、参拝客の誰もいないあの小さな祠の周りは
張りつめた空気が風音さえもさえぎっているように感じる。
それほど静まりかえっていた。
ゆっくりと祠に近づき、正面にしゃがんであらかじめ手の中に持っていた
倦怠封じ守を賽銭箱の中にそっと滑り込ませた。
鈴緒を鳴らしながらただただ無心で鈴の音に集中する。
なにかを終わらせるだとか何かと決別するだとか、
明るい未来を思い描こうだとかの思考を一切封じて、私はすぐに立ち上がり、
祠に背を向ける。
速まる足の運びに身を任せ、人々のざわめきの中へと戻ってきた。
境内の片隅で、ひっそりと決別の儀式を行ってきたことなど
知る由もない参拝客達に混ざって、そのまま帰ろうとした。
だが私は、本殿に参拝しようと列の後ろに並んだ。
自分自身のために。
今度は雅治と共に歩む未来を思い描きながら。
私の番がきた。
賽銭箱の前まで進み出て、静かに五円玉を入れ、鈴緒を鳴らしてから二礼二拍手。
そして手を合わせながら口を動かす。
どうか雅治と幸せになれます様に・・
参拝を終えて本殿から少しずつ離れていくにつれ、肩の力が抜けて体が軽くなっていく。
赤い鳥居の下で恋願神社を振り返り、もうここには来ないと心の中で呟いた時、
目の前を蛍が横切ったのが見えた・・気がした。