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毒蜜喰らわば
第5章 偶然は必然の前ぶれ
頭のすぐ後ろで聞えた声に、ガラスに映る自分の視線を動かすと、
同じようにガラスに映る男に目がいった。

「あっ!楠木さん?」

振り返りざまに甲高い声をあげた私に、楠木茂はいつも通りの笑顔を見せた。

「あの、なんで?なんでここに?」

「うちの本社が外苑前にあって。営業所から本社に寄って、
 これから学生時代の友達とこの近くの店で飲み会をやるんです。
 で、まだ時間があるから運動がてら表参道まで一駅歩いてきて、
 ブラブラしてたら稲村さんの横顔を見つけたんで」

横顔を見つけた。
なんてシャレた言い方をするのだろう、この人は。
もしかしたら本を読むのが好きな人なのだろうか。
仕事で見せる顔じゃない、素の顔をやっとひとつ、見つけられた気になった。

「稲村さんは?お買い物ですか?それとも・・あ、もしかしてデートの待ち合わせ?」

「え?ち、違います・・休みの前の日だからちょっと寄り道でもしようと・・」
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