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ヒ ミ ツ に し よ う ね ?
第2章 綾瀬ゆら

ゆらちゃんッ!
ゆらちゃんッ!
ゆらちゃんッ!!
猫は
ありったけの想いを
叫んでいた。
例え言葉にならずとも
この想いが
彼女に
届きますように。
「あぁん……猫さんっ!猫さんっ!」
「…………ッ」
かつて
声を歌に乗せ
世界各国
声の魔法を届けていた猫。
ある時
よちよち歩きの仔猫
庇って
大きな事故。
時間をかけ
躰は動くようになったが
声は戻らなかった。
絶望。
孤独。
不安。
打ち勝つため
晴れた日は
毎日
公園のベンチに
ちょこん。
座って
ただ
ぼぉっと
お休みしていた。
ある日
向かいのテニスコート
一人
孤独に
見えないライバルと
闘う
少女がいた。
おそらく
日本人。
猫の住む国では
もうすぐ
ジュニア選手権が
開催される。
彼女はきっと
その
仕上げの真っ最中。
100個のボールを
一つずつ
サーブ。
打ち終わると
拾い集め
また始める。
何度も
何度も
繰り返す。
途切れない
集中力。
凄いと想った。
汗がキラキラ
弾けて
なんて
綺麗なんだろう。
一目で
恋に落ちた。
当日
ひょっこり
猫は試合を観に行った。
けど
彼女の姿がない。
何故?
隣の観戦席にいた
日本人に
尋ねてみた。
話せない声。
分からない言葉。
それでも
ジェスチャーで
懸命に伝えた。
それで
ようやく
彼女が誰で
その身に何が起きたのかを
知った。
彼女を忘れられなかった猫は
もう一度
あの人の姿を
見たい。
その一心で
祖母の住む
日の出の
美しい国。
旅立つことを決めた。

