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海に散る桜
第1章 海に散る桜
 夕刻、部隊は岐阜県の各務原飛行場へと到着した。一旦今晩の宿泊先である旅館へと向かう。部屋は橋本と同室だった。

「お袋さんに会いに行くんだろう? ゆっくりしてこいよ」
「ああ、ありがとう」

 実家にはあらかじめ電報で到着時刻を知らせており、隊長の西田にも外出許可を取っている。何かの本を熱心に読んでいた橋本は顔も上げずにヒラヒラと手を振った。

 竹田は最寄りである那加駅へと急ぎ足で向かった。

(遅い……)

 待ち合わせ時刻を過ぎても、母親は現れなかった。決して人との約束を破るような母ではない。どこか別の場所にいるのではないかと駅構内をあちこち探してみたが、母親の姿は見えない。また駅員に訊いても事故もなくすべての列車が遅延なく動いているということだった。もしかして母親の身に何かあったのだろうか。

 一時間経過。
 二時間経過。
 ……三時間経過。

 結局竹田は駅で三時間母親を待ち続けた。今夜は今生で最後の逢瀬になるのだ。竹田は一目母親に会いたかった。だが竹田は結局母親に会うことができずに、旅館に戻ったのだった。
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