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海に散る桜
第1章 海に散る桜
「……なあ。本当のことを言えよ」
低く、抑えられた声が竹田の背中に向かってかけられた。
「本当は、お袋さんに会えなかったんだろう?」
やはり気づかれていた。だが竹田は本当のことを答えるか迷った。迷いに迷って、答える代わりにため息を一つ落とす。
「そうか。辛いな」
辛い。母親と会えないで死ぬのは辛かった。そう思ったら今さら涙が溢れてきた。
「いいお袋なんだ」
「それはお前を見ていればわかるさ」
橋本の声は優しかった。振り返りたかったが、振り返ることはできなかった。涙を見せたくはなかった。
「息子のお前に会うのが辛くなったのかもな」
「会いたかった」
「うん」
「会いたかったよ、お袋……」
橋本に背を向けたまま、竹田は涙を流した。
長かった夜は、静かに更けていった。
低く、抑えられた声が竹田の背中に向かってかけられた。
「本当は、お袋さんに会えなかったんだろう?」
やはり気づかれていた。だが竹田は本当のことを答えるか迷った。迷いに迷って、答える代わりにため息を一つ落とす。
「そうか。辛いな」
辛い。母親と会えないで死ぬのは辛かった。そう思ったら今さら涙が溢れてきた。
「いいお袋なんだ」
「それはお前を見ていればわかるさ」
橋本の声は優しかった。振り返りたかったが、振り返ることはできなかった。涙を見せたくはなかった。
「息子のお前に会うのが辛くなったのかもな」
「会いたかった」
「うん」
「会いたかったよ、お袋……」
橋本に背を向けたまま、竹田は涙を流した。
長かった夜は、静かに更けていった。