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海に散る桜
第1章 海に散る桜
「いらっしゃい! あ、竹田さんに橋本さん!」
四月十五日のお昼時。竹田は橋本と連れ立って富屋食堂を訪れた。知覧に来てからというもの、二人は頻繁に富屋を訪れており、食堂のおかみや娘とも親しくなっていた。
「やあ、元気そうだね。今日は食べ納めに来たんだよ」
「え……?」
日曜日で在宅していた娘は一瞬キョトンとした顔になったが、すぐに言葉の意味を察して顔を曇らせた。
明日四月十六日には陸海軍合同の攻撃が行われる予定となっている。海軍では「菊水第三号作戦」、陸軍では「第三次航空総攻撃」と呼ばれる作戦は、陸海軍合わせて二百機以上が特攻する大規模な作戦であり、竹田と橋本の所属する第七十九振武隊も出撃部隊に含まれていた。
「……そうですか。ではお腹一杯食べて行ってくださいね」
それだけ言うと娘は固い顔で奥に下がってしまった。無理もない、と竹田は思う。明日死ぬ人間を目の前にして、若い娘に一体何が言えるだろう。引っ込んでしまった娘に代わり、おかみが陽気に声をかけてきた。
「何か食べたいものがあれば、遠慮なく言ってくださいね」
「じゃあ、魚の天ぷらを二人分。初めて来たときに食べた魚の天ぷらが忘れられないんだ」
「あいよ」
おかみは厨房へ向かって声を張り上げた。
四月十五日のお昼時。竹田は橋本と連れ立って富屋食堂を訪れた。知覧に来てからというもの、二人は頻繁に富屋を訪れており、食堂のおかみや娘とも親しくなっていた。
「やあ、元気そうだね。今日は食べ納めに来たんだよ」
「え……?」
日曜日で在宅していた娘は一瞬キョトンとした顔になったが、すぐに言葉の意味を察して顔を曇らせた。
明日四月十六日には陸海軍合同の攻撃が行われる予定となっている。海軍では「菊水第三号作戦」、陸軍では「第三次航空総攻撃」と呼ばれる作戦は、陸海軍合わせて二百機以上が特攻する大規模な作戦であり、竹田と橋本の所属する第七十九振武隊も出撃部隊に含まれていた。
「……そうですか。ではお腹一杯食べて行ってくださいね」
それだけ言うと娘は固い顔で奥に下がってしまった。無理もない、と竹田は思う。明日死ぬ人間を目の前にして、若い娘に一体何が言えるだろう。引っ込んでしまった娘に代わり、おかみが陽気に声をかけてきた。
「何か食べたいものがあれば、遠慮なく言ってくださいね」
「じゃあ、魚の天ぷらを二人分。初めて来たときに食べた魚の天ぷらが忘れられないんだ」
「あいよ」
おかみは厨房へ向かって声を張り上げた。