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海に散る桜
第1章 海に散る桜
しばらくすると天ぷらが山のように運ばれてきた。相撲取りでもこんなに食べられるかどうかという量だ。その他刺身に煮付けなど、乗り切らないほどの料理が二人の前に並べられた。
「つけ揚げも食べておくれよ。うちの店で揚げた、自慢のつけ揚げだからね」
「小母ちゃん、こんなに食べたら腹壊すよ」
揚げたてのつけ揚げの皿を受け取ったはいいが、置く場所が見つからない。困惑する竹田を見てさすがの橋本も苦笑している。物のない世の中だ。二人のためにこれだけの料理を用意してくれた富屋のおかみに感謝しつつ、目の前の料理をありがたくいただいた。
「ごちそうさまでした」
「美味しかったよ。こんなに食べたのは何年振りかなあ。お腹が重過ぎて明日俺たち飛べないかもしれないよ?
「そしたらまた明日以降もうちに食べに来てくださいね」
おかみは明るく笑って橋本に応じた。明日死ぬ運命の特攻隊員を前に、冗談に冗談で返すところがさすが軍の指定食堂の人間だった。
「それはいいな」
「おいおい、橋本……」
「冗談さ。本当に竹田はお固いなあ」
食事を終えた二人は立ち上がった。いつまでもこうしているわけにもいかない。
「さてと。小母ちゃん、元気でね」
「娘さんにもよろしく」
「……軍指定食堂ってのも因果な商売さね」
小柄なおかみさんは、長身の二人の背中を抱くようにした。そして娘を部屋から呼び出すと、戻る二人が見えなくなるまで手を振って見送ってくれたのだった。
「つけ揚げも食べておくれよ。うちの店で揚げた、自慢のつけ揚げだからね」
「小母ちゃん、こんなに食べたら腹壊すよ」
揚げたてのつけ揚げの皿を受け取ったはいいが、置く場所が見つからない。困惑する竹田を見てさすがの橋本も苦笑している。物のない世の中だ。二人のためにこれだけの料理を用意してくれた富屋のおかみに感謝しつつ、目の前の料理をありがたくいただいた。
「ごちそうさまでした」
「美味しかったよ。こんなに食べたのは何年振りかなあ。お腹が重過ぎて明日俺たち飛べないかもしれないよ?
「そしたらまた明日以降もうちに食べに来てくださいね」
おかみは明るく笑って橋本に応じた。明日死ぬ運命の特攻隊員を前に、冗談に冗談で返すところがさすが軍の指定食堂の人間だった。
「それはいいな」
「おいおい、橋本……」
「冗談さ。本当に竹田はお固いなあ」
食事を終えた二人は立ち上がった。いつまでもこうしているわけにもいかない。
「さてと。小母ちゃん、元気でね」
「娘さんにもよろしく」
「……軍指定食堂ってのも因果な商売さね」
小柄なおかみさんは、長身の二人の背中を抱くようにした。そして娘を部屋から呼び出すと、戻る二人が見えなくなるまで手を振って見送ってくれたのだった。