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海に散る桜
第1章 海に散る桜
「そうか、あの滑走路は今でも使われているのか」
「はい、よく地元の子供たちが飛行船を見にやってきますよ」

 死ぬ覚悟を決め、若者たちが知覧へと飛び発っていった滑走路。飛行船に目を輝かせる子供たちは、そんな悲しい歴史があったことを知らないだろう。

「それにしてもお互いずいぶんと長く生きたものだな。君は今、幸せか?」

 てるてる坊主の葉山は昔よりもふっくらし、お地蔵様のようにも見えた。

「はい、申し訳ないくらい幸せです。竹田少尉殿は……」

 竹田はただ笑った。人並の幸せなど考えたことがなかった。国のために特攻隊へ志願し、生き残ったのちは公務員として再び国のために生きた。それが部隊の中でただ一人生き残った竹田に課せられた義務だと思った。自分の命は自分の物ではないのだ。散華した隊員たち、そして命をやると言って散った橋本の尊い命を預かっているのだ。

「俺の命は橋本がくれたものだ。だからこんな死に損ないでも、命尽きるまで力の限り生きなければならないんだ」
「橋本少尉殿ですか?」
「うん」

 竹田は葉山に、橋本と知覧で過ごした最後の夜のことを話した。葉山は意外そうな神妙な顔で竹田の話に耳を傾けた。
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