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海に散る桜
第1章 海に散る桜
「わかった、わかった。そうカッカするな。お前は本当に堅物だよなあ」
「貴様が柔らかすぎるんだ。落書きの件も、バレたら憲兵隊行きなんだからな」

 竹田は橋本を軽く睨んだ。以前、二人で街に出た際「ぜいたくは敵だ!」という標語の掲げられた看板に小さく「ス」の文字を書き加え、「ぜいたくはステキだ!」にしてしまったのも橋本の仕業だった。死と隣り合わせの特別攻撃隊に志願しながらも自由奔放な性格は一向に変わる様子がない。橋本はやれやれといった調子で肩を竦めてみせた。

「ハイハイ。じゃ、日夕点呼の後、俺の部屋で」

 部隊での点呼は朝六時の日朝点呼と夜八時の日夕点呼の一日二回。日夕点呼が終われば就寝までは自由な時間だった。

 橋本は気楽な笑みを浮かべて竹田の肩を叩くと、門の方角へ歩き去った。
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