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海に散る桜
第1章 海に散る桜
 竹田が郵便局から戻ると、小さな民間トラックが格納庫へ向かうのが見えた。おそらく塗装業者だろう。トラックの後を追いかけるように、竹田も格納庫へ向かった。

「あ、お帰りなさい、少尉殿」
「ただいま。俺たちの機体はどれだ?」
「前列の右から二番目であります」

 葉山が丸顔を竹田に向けた。格納庫には十二機の九九式高等練習機がずらりと機首を並べている。

 航空機不足に悩む軍首脳部は、帰還することのない特攻隊に現役爆撃機を用いることをやめ、一線を退いた練習機を充てることを決定した。竹田の部隊もこの旧式の練習機で敵艦隊に突撃するのだ。

 十二人の隊員と整備員が見守る前で、鮮やかな山吹色の練習機が目立たない灰緑色に塗り直されてゆく。塗装を終えた機体の尾翼部分には、桜の花弁をあしらった標識が描かれた。

 日本の春を象徴する美しい花。

 そしてこの桜の標識のついた機体を駆る者は、桜の如く儚く散り逝く運命――。

 隊員たちは一様に真摯な面持ちで、自らの墓標とも言うべき桜の標識を見つめていた。

 時は三月下旬。もうすぐ桜の花咲く季節だった。
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