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隷吏たちのるつぼ
第2章  第一章 醒めゆく悪夢



 言われてやってきたのは、繁華街にほど近い、古いタイプのマンションだった。

 斡旋サイトにも、学生生活課の掲示板にも、アルバイトの募集は数多くあったが、どれもこれも時給が安かった。それでは開講に間に合わない。家庭教師などは比較的高給だったが、金さえ貯まれば辞めるつもりなのだし、長期が期待されているアルバイトには手が出し辛い。

(困ったなあ……)

 手をこまねいている間にも、開講日は近づいてくる。

 ある日の学校帰り、無理やり渡されたティッシュの文字を何気なく読んだ。「ガールズ・バー・エックス」という店の従業員募集。

 怪しい。これまでの智咲ならまず興味を持たなかった。しかし、時給五千円前後、という記載が目に留まり、電車の中での手持ち無沙汰もあって、思わず募集広告サイトを開いてしまっていた。

『新店オープンのためバーテンダーさん急募! お客様とお話するだけの簡単なお仕事です』
『ノルマ一切なし! シフトも勤務時間もご自由に選んでいただけます』
『お酒が飲めない方も安心! 接客時にお酒を飲むことを義務とするお店もありますが、スタッフを大切に考える当店では、すべて皆さまの裁量にお任せします』
『高級志向の当店をご利用されるステキな男性がたと、ステキなひとときを過ごしながら働いてみませんか?』

 くだくだと誘い文句が並べられている。

 そもそも商態をよく知らないから「ガールズバー」で検索し、解説を読んでみた。男性の接客をすることには変わりないが、キャバクラとは違って飲食店扱いである。ヒットした質問サイトのやり取りを見ても、「風俗ではない」と主張する人が多い。

 いつしか情報集めにネットを散策していた。恣意のままに指先を動かしているつもりが、無意識に記事を選別していた。否定的な意見を述べている人がいたなら、反論を述べる人を探してしまう。五千円という時給が相場に比べてはるかに高いことはすぐにわかったが、それは高級志向だからだろうと裏も取らず、家の最寄駅に降り立った時には、電話だけしてみてもいいかもしれない、と考えるまでになっていた。

 念のため非通知でかけたが、拒否されることなく呼び出し音が鳴った。
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