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隷吏たちのるつぼ
第2章  第一章 醒めゆく悪夢
「お電話ありがとうございます、エックス・エンターテイメント、採用窓口でございます」

 肩の力が一気に抜ける、女性による礼儀正しい応答だった。

 たどたどしく、仕事に興味があることを伝えると、業務内容をスラスラとわかりやすく説明してくれる。酒に強くないから、ウェブに書いてあったことは本当かと訊ねると、間違いなく、なんなら一滴も飲まなくてよい、決して難しい仕事ではないと強調してくれた。

 丁寧な対応に緊張がほぐされたところで、

「ですが……」
 女性の方から切り出してきた。「大変失礼なことを申し上げますが、当店の性質上、働いていただく方の容姿は重要視させていただいております。これは面接の結果にも影響いたしますので、その旨、何卒ご了承いただきたく……」

 すまなそうな声。要は外見で判断すると言っているのだが、不快感はなかった。むしろ正直に先方から伝えてきたことで、信用度が増した。

 ガールズバーで働くことに、後ろ暗さを感じないわけではない。両親に言えば卒倒するだろう。

 だが、どんな仕事をするにせよ、言わないのだ。

 それに、内緒でそんな仕事をすることじたいに魅力を感じた。接客業を経験すれば、人間としての幅が広がるだろう。親が──特に父親が自分を小物に扱うのは、自身でも否定できない、子供々々したところがあるからだ。「女の子」ではなく、「女性」としてもっと大人びたら、見る目も変わるかもしれない。

 結局、話を聞いてみるだけのつもりが、面接の予約を入れてしまっていた。

 ──面接は店舗でだと思っていた。まだ店ができていないのかな、と疑問に思いつつも不審までは抱かず、インターホンを押した。

「はい」

 聞こえて来たのはあの女性ではなく、男の声だった。

「あの、十一時から面接をお願いしている者ですが……」
「あー、はいはい」

 怠そうな足音が聞こえ、表札も何もかかっていないドアが開く。若い男が顔を出した。無精髭で頭もボサボサ。同じ歳くらいだろうか。智咲を見るなり目を細めて全身を凝視してきた。

 男の風体は、智咲をいきおい訝しくさせた。
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