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隷吏たちのるつぼ
第5章  第四章 口開く陥穽
 外観では商業ビルにしか見えなかったが、開いた扉の先には通常のマンションのような玄関があった。慎重に足を交互に踏んでパンプスを脱ぐと、折しも強烈な高波がやってきて、呻きを漏らして凝固する。ちょうど目の前の壁に、馴染みのマークが貼られたドアがあった。仄かに芳香剤も漂ってくる。

「ト、トイレ行かせて……、……ください」
「くくっ、行って何すんだよ? あ?」
「……うっ」

 どれだけ切羽詰まっていても、その尋問にはハッキリとは答えられずに俯いて髪を垂らしていると、

「ベロチューさせてくれたら行かせてやるよ?」
「そっ、そんなっ……」
「さあ、ユカリン、どうする? おトイレはすぐそこだぜ?」
「くっ……! だ……、だって……、……うあぁっ!」

 波を上被せる波がきた。腹の内部から怒涛が伝わってくる。押し寄せる濁流に、ヒップを引き締め、指を強く挟み込んだ。

 もうダメだ。いっそ、征四郎の望み通りのキスをすれば──

「……っ」

 悠香梨は、横に、首を振った。

 秀之は唇を授けてやるといつも、まるで初めて与えられたかように喜んでくれる。下劣な男に下劣なキスを許す理由が便意だなんて、下劣すぎて、彼の何もかもを踏みにじることになる。

「そうかよ」

 拗ねたように言った征四郎はトイレのドアを開けると、悠香梨を中へ突き飛ばした。

「あっ!」
 よろけた拍子に指がズレ、体内で温められた薬液が数滴、脚を伝った。「あ……、あ……」

 目の前に便座が口を開いて待っていた。急いでスカートを捲って腰掛ける。ヒップを弛緩させようとしたとき、顔を影に覆われた。鉛色の肉幹を取り出した征四郎が、真正面に距離を詰めて立っている。

「わ……、で、出てってっ!」
「さっきはケツの穴まで見せてたくせに、いまさら何言ってんだ! おらっ、ヘンタイ女がタレる顔を見てシコってやるよ!」
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