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隷吏たちのるつぼ
第6章  第五章 誨淫の舎



 自席につくと、正面の先輩から顔色を心配された。

「あ、ええ……。すこし調子悪くて」
「大丈夫? 無理しないほうがいいんじゃない?」
「そ、そうですね。ちょっと寒気もして……、ヤバそうなら早退するかもですけど、様子見ます」

 肉体的な不調はなかったが、布石としてそう答えておいた。
 すると先輩は下世話な表情となり、声を密め、

「そういえば、昨日、日下ちゃん見たよー。カレシと一緒いるとこ。優しそうなカレシだし、なんかラブラブっぽかったじゃん? 服着ないでイチャイチャしすぎたから、風邪ひいちゃったんじゃないの?」
「ちょっと、センパイ。それってセクハラですよ」

 からかわれて、呆れた笑みを装った。

 確かに最近、秀之のイチャイチャが篤い。事故のことが一段落つき、篭山開発からの新たな発注が見込まれて浮かれている。悠香梨が入庁した時には、「しばらくしたら」と言っていたので数年単位のつもりでいたが、昨日「来年結婚しよう」と言ってきた。いつか、秀之のことだから一大決心をつけて、場所やムードを練りに練ってから正式に申し込んでくるのだろうと思っていたのに、智咲と太一に会いに向かう車の中で信号待ちをしている時、他愛もない会話の途中で言ったのだった。

 了承を伝えたが、秀之の中では結婚が当然のものであり、大いに油断している様子に、不満を感じずにはいられなかった。これまでの悠香梨であれば、不興を催したならばハッキリとそれを伝え、秀之の反省と改心を促す。しかし昨日は、全て胸の内に押し殺した。

 愛しいはずの彼女の堪忍を察することなく、帰り途、秀之はさも当たり前のようにラブホテルへ車を入れた。部屋に入り、気惚れてやまない肢体を抱き寄せ、背中や腰をまさぐってくる。腹へ押し付けるズボンの前を硬くして、年上の彼女のリードをねだってくる秀之の語調に幼児めいた音韻を聞き取って、これまでは可愛くすら感じていたというのに、昨日は身震いを抑えるのに腐心した。

 秀之が酔い潰れて眠りこけている隣の部屋で、強慾の焔に赤灼けた剛直で前も後ろも穿たれた。目眩めく絶頂を何度も味わされたあの日から、どれだけ恋人と性愛を交わしても、決して満たされることはなくなった。寝そべった秀之に跨っていくら腰を揺すろうが、征四郎の肉濁に敵うべくもない。
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