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隷吏たちのるつぼ
第2章  第一章 醒めゆく悪夢
 何より気色悪い──、というより不気味なのは、暗い屋内にありながら、時代遅れのティアドロップ型のサングラスをしているところだった。

「どうもぉ……、さ、さぁっ、は、入りなよ」

 男は毛穴の黒ずむ団子鼻から湿った吐息を漏らしつつ、智咲の肩へ手を置いて部屋の中へ導いてきた。触れられた場所からゾワリと悪寒が走る。

「初仕事で緊張しちゃってるんだねぇ。大丈夫、俺は慣れてるからね、安心して」

 慣れてると言いながら、若い女の子と二人きりになる昂奮が抑えられない、そう言わんばかりに喉を絡ませている。

 部屋にはセミダブルのベッドが鎮座していた。狭い。智咲は身の置き所がわからずに突っ立って、ベッドに腰掛けた男の、全身を鑑賞してくる目線に晒され続けていた。

「ふふっ……」
 やがて男はふき出すと、「ほら、お客さんにオプション確認して、お店に連絡入れなくていいのぉ?」

 何もできずにいた智咲を促してくる。

「え、は……、はい。え、えっと、ど、どう、しましょうか」
「んー、いいねぇ、初々しくってっ。じゃあ『全身ヌード』。チサトちゃんのすっぽんぽんが見たいなぁ」

 智咲は低劣な表現を聞いて、反射的に激しく首を振ると、

「い、いえっ、い、嫌で……、いえ、む、無理ですっ」

 と悲痛な声で言った。
 男は「嫌だ」と言いそうになったことに腹を立てることもなく、

「ハダカはNGなんだぁ。じゃあさ、下着姿は?」
「……そ、それも……」
「うーん、そっかぁ。じゃ、『フレンチキス』は? 『ディープキス』じゃなくて、チュッてするだけ。ほっぺでもいいよ」

 この男の脂じみた肌へ唇を触れるなど、考えただけで悲鳴を上げそうだ。

「すす、すみません。そ、それも、ちょ、ちょっと……」
「えー、そーなのぉ? ならハード系のオプションなんて、全部ダメっぽいねぇ」
 男は怒った様子もなく、「まぁ、初めてだもんねぇ。いいよ、『手コキ』だけにしてあげる」
「て、てこ……」

 何となく意味がわかった。してあげる、と言ったということは、男は譲歩をしたということだろう。
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