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隷吏たちのるつぼ
第2章  第一章 醒めゆく悪夢



 何のために公務員になったのか――
 そう自問する度に、智咲は悪夢を思い出す。

 男は智咲に幹を扱かせ続け、プレイ終了間際、見計らったようにまた白濁をぶちまけた。一度目と変わらない濃度と量。指の間から溢れて手首まで穢してくる。

 ショックに失心しかかる智咲をうつつへ呼び止めるように、タイマウォッチが救いの電子音を奏でた。

「あ、あの、おわ、終わり、……終わりですっ」

 息を乱して脱力している男だったが、サングラスに隠れていても目だけはネットリと自分を見つめてきているのがわかった。掴む手が緩まったから、すぐに智咲は腕を引いた。ベッドの上で正座したまま、祈るように胸の前で握り合わせると、拳の中から強臭が漂ってくる。

(うう)

 こんな手では顔を覆うことも、涙を拭うこともできなかった。

 手を洗ってくる。そう言おうとした矢先、男は携帯を取り出し、電話をかけ始めた。

「もしもしー。チサトちゃんなんですけど、延長、大丈夫ですかぁ?」

 驚愕して、指が粘液に塗れているのも構わず、

「も、もうイヤですっ!」

 携帯を奪い取ろうとしたが、男はサッと立ち上がると、下半身丸出しのまま、幹からポタポタと残滓を落として逃げていった。

「……ええ、いや不正なオプションなんかしてませんから。はい、……あ、いいですか? ええ、へえ、そうなんですかー?」
 男は涙目でかぶりを振り続けている智咲へニヤリとした笑みを向け、「ていうことなら、三万……、いや、五万、出しますよ、五万。……え、十万!? もぉ、オナクラに十万って正気じゃないですよ、ほんと足元見ますねぇ。いや、でも、いいです、十万ですね。もう、チサトちゃん、すっごい気に入っちゃいましたからね。その代わり、今日は俺がチサトちゃんを独占、ってことで!」

 恐ろしい会話だった。あの刺青男は自分を売ったのだ。十万円。下欲を満たすために投じるには呆れ果てる額だが、それだけ、この男が自分に執着しているということでもある。

「ふふっ、これで、今日のチサトちゃんは、俺だけのものになったよぉ……」

 電話を終えた男はワイシャツもアンダーシャツも脱ぎ捨てた。

「もう許してください……」
「いーっぱいヌイて、気持ちよくさせてねっ」
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